隣の奥さんと、雨の木曜日
木曜の午後は、いつも時間が余る。在宅の日は、会議の通知も鳴らず、チャットの未読も増えないまま、時計の針だけが静かに進んでいく。誰とも口をきかないうちに、窓の外の光が白く濁り、やがて雨が降り出す。だから隣にインターホンを押したのは、ほんの口実みたいなものだった。回覧板なんて、郵便受けに挟んでおけば済む話だったのに。
いや——正確に言えば、その回覧板は本来、俺の家には回ってこないはずのものだった。班が違う。なのに今朝、うちのポストに入っていた。宛名の欄には、すでに俺の家の判が押されていた。押した覚えはなかった。インクの色が、いつものよりも少し鮮やかだったことだけが、妙に引っかかっていた。
「はぁい」
くぐもった声のあと、ドアが開いた。隣の奥さん——佳奈子さんは、割烹着でもエプロンでもなく、薄手のワンピース姿だった。淡い生成り色の布が、胸の谷間に沿ってゆるく落ち、いつもの外出着より、開きが少しだけ深い。部屋着のつもりだったのだろう。俺の顔を見て「あら」と小さく声をあげ、襟元に手をやった。指先が鎖骨のあたりをなぞる仕草は、隠すというより、そこに視線を誘導しているように見えた。
「ごめんなさい、こんな格好で。旦那、今日は泊まりの出張なの」
その一言が、やけに耳に残った。まるで、俺が訊く前から用意されていた答えのように。
回覧板を差し出す。受け取る指先が、俺の指に触れた。ほんの一瞬。彼女はそれを引っ込めなかった。爪の先が、俺の人差し指の腹を、ゆっくりと擦った。雨の湿った匂いと、柔軟剤の甘い香りが、半開きのドアの隙間から流れてくる。その奥に、もうひとつ、肌の熱で立ちのぼるような、ほのかに甘い匂いが混ざっていた。
「……お茶でも、飲んでいく?」
断る理由を探したけれど、見つからなかった。喉の奥が、妙に乾いていた。
通された居間は、昼なのにカーテンが引かれて薄暗かった。レースの隙間から、雨に濡れた光が筋になって落ちている。まるで、はじめからそうしてあったように。テーブルの上には、湯呑みが——二つ、すでに並んでいた。ひとつは、まだ湯気を立てている。湯気の匂いが、ほうじ茶の香ばしさとともに部屋に広がっていた。
「お客さん、来る予定だったの?」
訊くと、彼女は少しだけ笑って、「ええ、まあ」とだけ答えた。それ以上は、言わなかった。
雨音だけが部屋を満たしている。佳奈子さんが背を向けて台所に立つと、ワンピースの布地が腰のラインをなぞって、その奥の輪郭まで浮かび上がらせた。歩くたびに、太ももの内側の柔らかさが、薄い布を押し上げて揺れる。見てはいけないと思うほど、目が離せなくなる。
彼女が俺の隣に腰を下ろした。距離が、近い。太ももがソファの上で、俺のそれに触れるか触れないかのところで止まっている。香水ではない、素肌の熱が、じかに伝わってくるようだった。
「最近ね、旦那とうまくいってないの」
独り言のような声だった。俺は何も言えずに、ただ湯呑みを握っていた。彼女の横顔が、こちらを向く。潤んだ瞳が、まっすぐに俺を捉えた。その目は、泣きそうというより——狙いを定めた目だった。
「ねえ……少しだけ、いい?」
答える前に、彼女の手が俺の膝に置かれた。熱い手のひらだった。次の瞬間、やわらかいものが唇に触れていた。甘い吐息が混ざり合う。彼女のワンピースの肩紐が、片方だけ、滑り落ちていた。
唇が重なったまま、彼女の舌が俺の口の中をゆっくりと這う。唾液が絡み、甘い水音が立つ。肩紐を完全に落とすと、乳房が零れ、先端がすでに硬く尖っていた。掌で包むと重みが指の間から溢れ、親指で円を描くたびに、彼女の喉が甘く鳴る。
俺のシャツを開き、腹をなぞった彼女の手が、ベルトを外し、ズボンの中へ滑り込んだ。指先が触れた瞬間、すでに怒張の先端から、透明な先走りの液が溢れていた。鈴口を濡らし、糸を引くほど粘ついている。彼女の指がそれを掬い、ぬるぬると肉茎を上下させる。熱い。
彼女は俺のものを外へ引き出し、自分の太ももに押しつけた。ワンピースの裾を捲ると、白い下着の中央が、すでに色を変えて湿っている。布を横にずらした。綺麗な秘裂が露わになる。薄いピンクの秘唇が、わずかに開いて、内側のぬめりを光らせていた。花芯は包皮の下から小さく顔を出し、充血してぷっくりと膨らんでいる。
俺の怒張を、その割れ目に沿わせた。先端が、濡れた肉に触れる。先走りと彼女の愛液が混ざり、ぬるりと滑る。肉芽の膨らみを、裏筋でゆっくり擦ると、彼女の腰が跳ねた。粘液だけでも、あたたかく、とろりとして、擦るたびに心地よい抵抗が返ってくる。秘唇の縁が、カリの段差に絡みつき、吸い付くように開いては閉じる。彼女の息が乱れ、太ももが内側から俺の腰を挟んだ。
「……入れて」
掠れた声だった。秘口の奥が、わずかに窄まりながら、先端を誘い込むように脈打っている。早く貫いて、とでも言いたげに、入り口の肉がひくひくと動いて、俺のものを咥え込もうとしていた。淫らで、熱く、誘う蜜壺だった。
俺は腰を少し進め、先端だけを沈めた。狭い秘口が、カリをきゅっと咥え、一度抵抗してから、ぬるりと飲み込んだ。少しずつ、入っていく。彼女の顔つきが、変わった。眉が寄り、唇が半開きになり、頬に紅が差す。艶っぽく、焦点の合わない目で俺を見上げている。
中は、想像以上にあたたかかった。柔らかい肉壁が、俺のものを包み、絡みつきながら締め付けてくる。奥へ進むたびに、ヒダが擦れ、蜜がさらに溢れて、結合部からとろりと零れる。俺のものは、さっきよりも硬く、脈打って、彼女の中でさらに膨張していくのがわかった。
半分ほど入ったところで、彼女が自ら腰を沈めた。根元まで、一気に。奥の柔らかい場所が、先端を優しく押し返し、同時に内壁全体がきゅっと締まる。温かく、とろとろとした肉が、俺のものを奥へ奥へと誘うように蠕動していた。抜きかけると、入り口が名残惜しげに吸い付き、また沈めると、絡みつくヒダが幹を撫で上げる。彼女の声が、甘く裏返る。
「……ん、奥、当たってる」
俺は彼女の腰を掴み、ゆっくりと律動を始めた。抜くたびに肉壁が追いすがり、入れるたびに奥が開いて迎え入れる。締め付けは強く、しかし柔らかく、まるで自分から絡め取ろうとしているようだった。花芯が、俺の下腹に擦れ、そのたびに彼女の内が痙攣するように窄まる。汗の匂いと、蜜の甘い匂いが濃くなり、濡れた音が雨音を超えて部屋に響く。彼女の乳房が揺れ、先端が俺の胸を擦る。熱い。中はますます熱を帯び、奥へ誘うように、波打って俺を飲み込んでいく。
何度か深く突き上げると、彼女の背中が反った。内壁が強く、何度も収縮し、根元を搾るように締め上げる。顔は完全に艶を帯び、唇から甘い吐息が漏れて止まらない。
その締まりに誘われるように、俺も限界を越えた。熱いものが、脈打ちながら奥へ放たれる。彼女の腰が小さく跳ね、まだ余韻の痙攣が、俺のものをきゅっきゅっと締め続けていた。
どれくらいの時間が経ったのか。カーテンの隙間から入る光は、まだ昼のままだった。雨は、いつのまにか止んでいた。結合部から、白く濁ったものがゆっくりと溢れている。
服を拾い集めながら、俺はテーブルの端の回覧板を、何の気なしに開いた。そして、手が止まった。
隣の——佳奈子さんの欄には、すでに先週の木曜の日付で、受領の判が押されていた。彼女はとっくに、これを回し終えていた。回す必要などなかったものを、わざわざ俺のポストに。口実を、自分で作って。
顔を上げると、戸棚のガラスに玄関が映っていた。そこに揃えられた、男物の靴。俺のものではない。それが誰のものなのか、俺は訊かなかった。訊けば、この午後が何だったのか、はっきりしてしまう気がして。
「木曜日はね」佳奈子さんは、ワンピースの肩紐を直しながら、こちらを見ずに言った。「わたしの日なの」
それ以上は、何も言わなかった。湯呑みは二つ、並んだままだった。ひとつは、まだかすかに湯気を立てている——俺が来るより、少し前から。
玄関で靴を履くとき、傘立てに自分の傘が一本、きれいに乾いたまま立っているのに気づいた。来るとき、俺は傘をさしただろうか。どうしても、思い出せなかった。
「来週も、回覧板。入れておくから」
背中で、そう聞こえた。雨は止んでいる。それでも俺は、来週の木曜もまた、傘を持って家を出るのだろう。あの靴が誰のものなのか、答えを知るのが怖いまま——それとも本当は、もう気づいているのかもしれない。